『くちびるに歌を』中田永一 読了
先日『線は、僕を描く』を読んだ影響もあって、久々に青春系の小説も読んでみようかなと思い、引っ張り出してきました。
写真をじっくり見るとわかるのですが、僕が持っている本の中で一番何度も読み返している本なので表紙の端が所々擦れています。
と言っても一番読んでいたのは、中高の頃でしたが。
『くちびるに歌を』は、中学3年生の二人の主人公・桑原サトルと仲村ナズナの語りが基本となって物語は進んでいきます。
舞台は五島列島のとある島にある中学校の合唱部。合唱部の顧問である松山ハルコ先生が産休に入るため、臨時の教師として柏木ユリが中学校にやって来るところから始まります。
合唱部の夏の大会、と言われるものはNHK全国学校音楽コンクール(通称・Nコン)と呼ばれるもの。
その大会を目標として合唱を作り上げていく中で、思春期である生徒たちの様々な感情が描かれています。
正直内容としては、スポ根ではありませんが、典型的な青春小説とはなんら変わりはないと思っています。
しかし、中学3年生、15歳という、人生の中で必ず誰しもがやってくる大きな転換点を生き生きと描いている事がこの作品の魅力です。
アンジェラ・アキさん作曲の『手紙〜拝啓十五の君へ〜』という曲をご存知でしょうか。
この曲は実際の2008年開催のNコンの為に書き下ろされた曲ですが、15歳という最も多感な時期に自分の行き先に悩む『僕』と、大人になった『僕』が当時15歳の僕に返答を送るという歌詞の曲で、共感を覚えた方も多いのではないでしょうか。
この物語のNコンでも、この曲が課題曲として登場しています。
部活のこと、人間関係のこと、親との関係のこと、様々な事に悩む彼らは、この課題曲にならって、15年後の自分へと手紙を書きます、あなたは何をしていますか。
現実的に言ってしまえば、未来の自分から手紙が届くことはありません、自分の手で道を切り開くしかないのですが、それでも構わない、当時の僕はこんなことを考え、生きてきました。
そうやって青春を過ごす彼らの姿が眩しくて、甘酸っぱい、読んだ当初は、ただ自分と変わらぬ年齢の子達の物語だと思ってましたが、15歳から5年経つだけで、なんだか愛おしく思える物語になってしまいました。
これ、30歳になった時の自分が読むと、それこそどう思うのでしょうか。
この物語は映画化もされています。
僕も見た事があるのですが、ラストシーンで、訳もわからずボロボロと泣いてしまいました。
別れが悲しかった、というより、美しさに泣いてしまった、という方が近いのでしょうか、ひたむきに頑張り続ける彼らの姿が眩しくて眩しくて。
これ、ほんとにもっと大人になった時に見たら、ずっと泣き続けるんじゃないでしょうか…。
青春に限らず、ひたむきに何かに取り組む姿は、誰であろうと美しいものです。
去年の春に、少しご縁があって春のセンバツで応援する機会をいただきました。
甲子園、のいえばやはり夏の大会が注目されがちですが、全国から選ばれた高校球児たちが、優勝を目指して頑張り続ける姿は、何とも言い難い美しさというものがありました。
また、僕は応援側だったのですが、初めて出場校の生徒たちに混じって応援をしたので、その力強さに圧倒されました。
その時になって初めて、「青春とはこういうものなのか」と、実感することが出来ました。
正直に言うと、自分が高校生だった頃は、ただひたすら走っていただけだったので、これが青春か、と思う暇はなかったのです。
さて、最後にちょっと余談です。
この作品の舞台は五島列島、そしてその五島列島には世界遺産『長崎と天草地方の潜伏キリシタン関連遺産』があります。
また、『くちびるに歌を』以外で、遠藤周作さんの『沈黙』、桑原水菜さんの『遺跡発掘師は笑わない まだれいなの十字架』で潜伏キリシタンのお話などを読んだ影響があって、それ関連の観光を絶対に行きたいと思っています。
それに、なんとも不思議なもので、僕の御先祖様はとある藩の武士だったのですが、島原の乱において、鎮圧のために参加をしています。
その影響もあって、いつか行きたい、ではなく、絶対に行く、と心に決めています。
それに、普通に長崎を観光したいですしね、美味しいものも食べたいし。
僕にしては珍しく、青春小説にあたるであろうジャンルを2日続けて感想を書いてみました。
たまに読む分には凄くいいのですが、恋愛がメインとして描かれているものはどうも苦手なんですよね、あくまで主体は別のテーマで、恋愛は調味料みたいな感じで。
それ故に、中々見極めるのが大変で、あまり手を出していないジャンルであります。
今読んでいる本に飽きたら、少し冒険してみようかな。
今日も最後まで読んでいただき、ありがとうございます。
また明日お会いしましょう。