怜士の本棚

不定期に読んだ本の記録や、感想を載せていきます。ファンタジーやミステリー系が多いです。たまに、日記のようなものを書きます。

『線は、僕を描く』砥上裕將 読了

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この本は、芸術を愛する全ての人に読んで欲しい。

かつて、自分に足りないものがあるがそれが何かわからず、苦しんだ事の答えが、この本には描かれている。

 

主人公・青山霜介は、17歳の時、両親を事故で亡くした。

その直後は、「自分が頑張らなくちゃ」という意思だけで、他人には明るく振舞っていた。

しかし限界が来た。彼は外の世界を拒否し、自らの世界へとこもってしまった。

そんな中、アルバイトとして訪れた展示会場で、水墨画の巨匠・篠田湖山と出会う。

紆余曲折あって、内弟子にされてしまった霜介、そしてなぜか湖山の孫・千瑛と勝負をする事となった。

初めて体験する水墨画の世界に、やがて霜介は外の世界へと目を向けることとなった。

 

作中で、霜介は初心者ではあるが、技量に関してはある程度は申し分ない、と湖山に告げられます。

しかし、技量はあってもそれより先にあるものが掴めず、水墨画として描くことが出来ない、という壁にぶち当たります。それは、姉弟子の千瑛や、もう1人の兄弟子・斉藤湖栖も同様でした。

その事を湖山に告げると、ただ一言、「花に教えを請え」とだけ。

そして霜介は、課題である菊の花に声をかけ、じっと見つめ、菊の命に問いかける。

その瞬間、菊は美しく命をもったものとなり、その姿をとどめておくように、画仙紙へと写し取る。

その作品は、命を描いた作品。技量だけがあっても描けない作品でした。

 

なぜ僕がこの作品をこんなにも気に入っているかというと、種類は違えど同じ芸術を愛するものだからです。

僕の場合は水墨画、なんて大それたものではなく、ただの吹奏楽部の一部員です。

中高大、と続けていったので楽器や音楽が好きであることには変わりはないのですが、どうもコンクールだけは大嫌いでした。

ただ単にコンクール前は練習が厳しくなるから、とかいう理由ではありません。コンクールだろうと演奏会だろうと、正直練習量は変わりません。1曲にかける時間が多いか少ないかの違いです。

ずっとそれが疑問に思っていたのですが、この本を読んだことで、「ああ、こういう事だったんだ」と納得することが出来ました。

コンクールで、上手い学校の演奏を右にならえで真似をすることや、パート内で誰も飛び出すものがいないよう揃えることが嫌だったのです。

まあ、多分屁理屈だろ、と捉えられるかもしれませんが、その2つの中でもパート内で揃える、という事がただただ苦痛でした。

特に高校生の頃、僕の所属していたパートは人数もそこそこ多く、それぞれの人間が個性が強いということもあり、音の質を揃えろと言われていたのがかなり大変でした。

例えば、トップで吹く人が柔らかい音質で吹けばそれに揃え、固い音で吹けばそれに揃える、という話です。

コンクールで演奏をする以上、音質を揃えて一本の音にしなくてはならないのですが、それが個性を押し潰されているように感じて仕方がなかったです。

その代わり、曲の中でソロを貰って、指揮者の横で演奏をする時はなんとも言えぬ爽快感がありました。

楽団の中にいれば、僕は楽団を構成する一部員ですが、ソロとして外に出てしまえば僕個人一人として観客は見てくれます、そして、勿論著しく逸脱するわけではないですが、自分の思うがままに表現をして演奏をすることは、とても気持ちが良かったのです。

作中の言葉を借りて表現するなら、「曲は、僕を描いていた」、言葉として表現することは、自分の文章力だと難しいですが、そうやって生きていくやり方もあるのだなと、この本を読んで感じました。

 

ここまで自分の思ったことを、文として書きましたが、正直言いたいことをかけているのかは全くわかりません。僕の感性が他人とズレている、と言われたらそこまでです。

この物語では、『線』を『命』として描き、また『命』を構成するものに『線』として描かれています。

ですが、これは水墨画だけに言えることではなく、その他全ての芸術に言えることではないのでしょうか。

 

岡本太郎さんの有名な言葉で「芸術は爆発だ」というものがあります。

これは、「芸術とは人々の生きがいであり、喜びである」という言葉から、この世に生み出される芸術作品とは、人々の生きる様、命を、そして爆発させた喜びというものを表現したもの、と僕は解釈しています。

芸術とは本来、ただ右にならえで模倣するだけのものではなく、自分の命を表現するためのものではないのか、と僕は思っています。

 

勘違いされるといけないので書いておきますが、別に模倣が悪だとは思っていません。

僕は趣味程度に絵を描きますが、何も見ずには駆けません。こういったものが描きたい、と思った作品を手本として、その中で自分らしさを出して描いています。

何かを模倣しなければ、新しいものを生み出せないこともあります、温故知新、ってやつですかね。

 

さて、思ったこと書きたいことをそのまま書いていってしまったために、文字数が過去最高になってしまいました。

恐らく学校の読書感想文だと、もう少しわかりやすくまとめろ、と突き返されてしまいますね。

でもそれでもいいのです、自分の感じた事、考えたこと、それを表現するこの感想文も、一つの芸術だと僕は思います。

ここに綴られた文字の一つ一つが、結びついて、僕という人間を構成しているのです。

 

今日も最後まで読んで頂きありがとうございます。

また明日お会いしましょう。