怜士の本棚

不定期に読んだ本の記録や、感想を載せていきます。ファンタジーやミステリー系が多いです。たまに、日記のようなものを書きます。

『浮雲心霊奇譚 妖刀の理』神永学

f:id:missokinoko:20200403145418j:image

浮雲心霊奇譚』シリーズより第二巻です。

妖刀の理、と言うだけあって察しの良い方なら、それが何ものなのかお分かりなのではないでしょうか……。

ちょっとした予備知識があるだけでも、本を読むのが楽しくなっちゃいます。

 

四の五の言ってないで、さっさと妖刀の答え合わせです。

日本で妖刀と言われる場合には、村正という刀を指します。

村正というのは室町・戦国時代に現れた、伊勢国桑名の刀工が打った刀です。

妖刀、と呼ばれる由縁になったのは色々ありますが、有名なものでは徳川家康が嫌った事があります。

なんでも家康の祖父や父など親族を斬り殺し、自らも村正によって怪我をしていた為、徳川家に仇なす刀として近づけず、家臣がその刀を使う時は銘を潰させたとか。

僕は村正の刀を何度か見たことはありますが、別にそんな感じはしなかったのですがね……、単に第六感がないのか、外様大名家臣の血を引くせいか。

その他様々な言い伝えによって、村正は現代まで妖刀として恐れられているのです。

 

話を物語に戻しましょう。

この本には短編が3編収録されていますが、その中で『禍根の理』が一番好きです。

大まかなあらすじとしては、沼に近づいた男二人が幽霊を目撃したーという話を八十八が浮雲に持ちかけるところから始まります。

紆余曲折あって、沼に現れる幽霊の招待を突き止め、憑き物落としを始めるシーンからが僕のお気に入りのシーンです。

 

沼に現れる幽霊、その人は男性で、殺された後にその沼に沈められていました。

その男性には妻がおり、その妻が男性に声をかけます。 「あなたが戻ってこない時点で、もうこうなることはわかっていた、もう諦めていた」と。

正直現代に生きる僕たちにはわからない感情です。夫が帰って来なくて、まさか斬り殺されてるなんてことは、平和ボケしている僕らには全く想像もつきません。

ですが、いくら江戸時代、太平の世となっても、人を殺めることができる道具を携帯している人間が闊歩している時代です。

そして就いていた職業的にも、斬られてしまってもおかしくない職業、帰ってこないとなればあぁ、殺されちゃったんだろな、と諦めに近い感情も湧き上がってくるのでしょう。

僕はこの女性の強さに、心を打たれました。

俗説には大河ドラマでは、女性をしっかりと描いている作品はヒットすると言われていますが、その理由がわかったような気がしました。

主人公だけを描くのではなく、その裏で支える力強い女性も描く、そうすることで、視聴者は感情移入がしやすく、心を掴むのでしょう。

戦国時代からは100年単位で違いますが、これがあの時代を生きる事なのだと、ありありと感じさせられました。

こういった美学、の話ではありませんよ、ただ単にこうやって生きている女性達が美しくありつつも、彼女たちが泣けないのならば、代わりに泣いてあげたい、っていう不思議な感情から来るものです。

 

最近、というか高校を卒業してからぐらいでしょうか。

それまでは感想文を書く、というのが億劫で仕方ありませんでした。

その当時は、ただ物語を消費していくだけの読書好きでしたから、この本は面白かった、こっちは面白くなかった、というだけの感情しかありませんでした。

ところが最近は、本を読めばかなり感情が揺さぶられ、ほわほわと幸せな気持ちになる時もあれば、衝撃的な展開に思わず声を上げたり、挙句の果てには涙をこぼす時もあります。

本当はカフェとかでも読んでみたいのですが、これがある故に外では読みたくない、と言うより、感じたままの感情をそのまま声に出してしまわないと自分が爆発してしまいそうなので、敢えて家で読書している、というのもあります。

なので、昔はあんなに億劫だった感想文を、今は寧ろ書きたい!そしてこの感動を他の人にも伝えたい、という気持ちで書いています。

人間、変わるものですね。

そしてそうなると、なんで真面目に読書感想文コンクールをやらなかったんだ、と後悔もします。

あれ、今思えば文集に載せられれば、気になって読んだ子におすすめの本を伝えることができますよね、なんて勿体ないことをしてしまっていたんだ僕は……。

 

まぁ正直、過ぎたことを悔やんでも仕方のないことです。

その代わり、誰が見てくれているかもわかりませんが、誰か一人の目にでも留まってくれて、この感動を分かちあってくれる人がいればいいなぁ、っていう軽い気持ちでこの感想文を書いています。

僕の長くて愛の詰まった独り言です。

 

今日も最後まで読んでいただきありがとうございました。

また明日お会いしましょう。